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映画 いくつもの感動と出会い

映画『怒り』感想・登場人物 3つのストーリーが描く「怒り」 ※ネタバレあり

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 映画『怒り』を観てきました。「もし自分の傍にいる人物があの整形した犯人だったら?」。観ている者まで犯人を疑ってしまう、そういう作品でした。

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(C)2016 映画「怒り」製作委員会

作品情報

公開:2016年

時間:2時間22分

監督

主なキャスト

登場人物

登場人物を舞台となった場所別に記載します。

 千葉

槙 洋平(渡辺謙)
千葉の漁協で働く愛子の父。男手一つで娘を育ててきた。

明日香(池脇千鶴)
洋平の銘で愛子のおばさん。

槙 愛子(宮崎あおい)
都内の風俗店で働いていたが連れ戻される。父と同じ職場の田代に恋をする。、

田代 哲也(松山ケンイチ)
洋平と同じ漁協で働く素性のわからない男。愛子と同棲を始める。

 沖縄

小宮山 泉(広瀬すず)
沖縄の離島に母親と二人で引っ越してきた高校生。

知念 辰哉(佐久本宝)
民宿「さんご」の息子。泉の同級生。

田中 信吾(森山未來)
無人島に居ついているバックパッカー。偶然泉と出合う。

 東京

藤田 優馬(妻夫木聡)
エリートサラリーマンのゲイ。母は末期がんで定期的に看病する。

藤田 貴子( 原日出子)
優馬の母。末期がんで入院。

大西 直人(綾野剛)
優馬が新宿で出会った無職の男。優馬と同居する。

(高畑充希)
直人の過去を知る女性。

 警察

 八王子事件の担当刑事

南条邦久(ピエール瀧)
八王子署のベテラン警部補。

北見 壮介 (三浦貴大)
八王子署の若手巡査部長

あらすじ

東京八王子で夫婦2人が残虐な形で殺害された事件が発生した。犯人は犯行を行った後しばらく家の中に居て、壁には犠牲者の血で大きく「怒り」と書きなぐられていた。操作を進めるうちに犯人の名前は山神一也とわかるが、身元を隠して渡り歩いているようで足取りがつかめないでいた。また、新潟の病院で整形手術をていることも判明した。

 

感想

4つの近年発生した事件を彷彿しました。

八王子からは、八王子スーパー強盗殺人事件を、犯人が犯行現場で数時間過ごしたところからは「世田谷一家殺害事件」を、犯人が整形して土木作業を行っていたところからは「リンゼン・アン・ホーカーさん殺害事件」の市橋犯人を、沖縄の少女暴行では今年4月の「うるま市強姦殺人事件」を。どれもインパクトのある事件でそのニュースを聴いただけでも怒りが込み上げてくるものです。

犯人のイメージ写真も市橋犯人に似ているので、そこは意識して製作しているはずです。

綾野剛と宮崎あおい

日本を代表する俳優渡辺謙の存在は大きかったです。若手の方々もいい演技を魅せていましたが、特に綾野剛と宮崎あおいの演技は印象に残りました。綾野剛は、「64」でもいい演技だなと思っていましたが、今回は全く違った役作りをしています。同一人物と思えないくらいでした。

3つのストーリー

物語は、八王子で発生した夫婦殺害事件とどう関係があるのかわからない、東京・沖縄・千葉のそれぞれで、素性のはっきりしない男とその周囲を描いて展開していきます。話が急展開するのはTV放送で整形後のイメージ写真が放映されてからです。3つの場所で彼らと親しくしようとしていた者たちが疑いを抱くようになります。そしてそれぞれの素性が明かされていき、犯人が「怒り」と共に現れます。また、この作品は殺人事件の犯人が誰かなのかというミステリーな展開の他に、3つの場でのいくつもの「怒り」も描いています。3つのストーリーというのもあり、2時間22分が全く長く感じませんでした。

いくつもの「怒り」

・犯人の怒り

間違えて指示をだした上司への怒り

自分に同情をした婦人への怒り

・優馬の怒り

裏切られた感のある直人への「怒り」

直人を信じることが出来なった自分への「怒り」

・洋平の怒り

好き勝手している娘への「怒り」

素性がはっきりとしない田代への「怒り」

娘の噂に何も出来ない自分への「怒り」

娘の愛した相手を信じれない自分への「怒り」

・愛子の怒り

自分の愛した相手を最後まで信じることが出来なかった自分への「怒り」

・泉の怒り

自分を襲った米兵への「怒り」

襲われていたとき助けてくれなかった辰哉への「怒り」

女性が泣き寝入りしないといけないという社会への「怒り」

・沖縄県民の怒り

軍基地に対しての沖縄県民の怒り

・・・・

3つの舞台での人間像

今作品で描かれている3つの舞台での人間像を「怒り」「信じる力」で照らしあわせてみます。

・東京

「怒り」は普段抑圧されたまま表には現れません。人も信じません。「怒り」が爆発した時異常になります。

・千葉

「怒り」は普段抑圧していますがそれを恥じています。人を信じようと努めます。「怒り」の爆発を人に相談して抑えます。

・沖縄

「怒り」はデモなどで発散します。人を信じます。「怒り」が爆発した時罪を犯しますが、正義感があります。 

「怒り」の矛先

本来「怒り」の矛先は正義が悪に対して向かうものですが、今作品で描かれる「怒り」は弱者に対して向けられていて本来の対象から外れています。八王子事件では、当然誤った指示を出した派遣会社の担当に対して向かわないといけないだろうし、沖縄では米兵に対して向かわないといけない。田代の素性が明らかでないことはヤクザに対して向かうべきだし、優馬にいたっては自身の怒りを抑圧して表に現れません。

「怒り」について

ブラッド・ピット主演の映画『セブン』でも「怒り」を7つ目の大罪として描いています。私たちの普段の生活に「怒り」は現れては消え現れては消え、大きくなりそうになれば抑え込まれ姿を現しません。そして抑えきれなくなると突然魔物のように姿を現します。あの壁に書かれた「怒り」の文字がその激しさを表しています。

いつも平常を装っていて「怒り」を抑圧している犯人は、単る個人への感情ではなく社会に対して「怒り」を感じた時に制御不能になってしまいます。八王子事件では派遣会社に対しての「怒り」です。ただ派遣会社で働く原因は自分自身にもあるので怒りの矛先が自分にも向いてきます。そうなった時に爆発してしまいます。

沖縄の舞台では米軍基地反対のデモが描かれています。デモも「怒り」の一つの姿で、はけ口にもなっています。ラスト、泉が海に向かって大きく叫びますが、どうする事もできない「怒り」を吐き出そうとしています。2つとも意味がないようですが、そうでもしないと「怒り」がどんどん膨らみおかしくなってしまいます。

原始感情と言われる「怒り」。人間社会に最も大きく関わっている感情。余りにも日常すぎて意識しませんが、ちょっと考えてみました。

こう難しく観なくても感情に響くいい作品でした。

予告動画

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怒り(上) (中公文庫)

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怒り(下) (中公文庫)

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山神とは一体、どんな人物だったのか? 残された謎に迫る。
他に、映画『悪人』『怒り』に出演した俳優・妻夫木聡氏と吉田修一氏の特別対談「祐一と優馬を繋ぐ線」、李相日監督インタビュー「吉田作品の魅力」、映画『怒り』ロケ地訪問記、吉田修一全作品解説などを収録。

小説怒りと映画怒り - 吉田修一の世界

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