シオンプロダクション第一作目『ひそひそ星』を観てきました。(新宿シネマカリテ)水曜日は映画ファンサービスデーということで1000円で、しかもトークショウ付きでお得でした。
作品情報
監督・脚本・プロデュース:園子音、主演:神楽坂恵さん(二人はご夫婦)でシオンプロダクション第一作目の作品です。神楽坂恵さん園監督作品には良く出ていておなじみの顔となっています。私は今まで園作品は『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』、『TOKYO TRIBE』を観ましたが、人間の真剣な部分とそれとは裏腹な適当な部分を同時に表現しているという印象を持っていました。またそれを神楽坂恵さんがうまく演じているんです。素なのかなと思ってしまいます。
あらすじ
人類は数度にわたる大災害と失敗を繰り返して衰退の一途にあった。現在、宇宙は機械によって支配され、人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、人間は2割にまで減少している。アンドロイドの鈴木洋子は、相棒のコンピューターきかい6・7・マーMと共に宇宙船に乗り込み、星々を巡って人間の荷物を届ける宇宙宅配便の仕事をしていた。ある日、洋子は大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある「ひそひそ星」に住む女性に荷物を届けに行くが……。
感想
今回の作品は、私が観たバイオレンスな3作品『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』、『TOKYO TRIBE』とは全く違っていて、しずかな展開の映画です。通常のSF映画だと思っていくと期待を外されます。序盤はこの不思議な世界に魅せられますが、テンポも緩やかで展開もさほどなく音声も囁くようで眠くなってきます。(私に芸術的センスがないのかな)終盤になっても良く分からないのですがその分集中力が増してきます。興業のことは考えず意図的にこのような映画を作成したということは本当に作りたいものだったのだろうと思います。他のサイトに園監督のコメントが出ていますので紹介します。
モノクロームの映像を中心に構成された「ひそひそ星」は、園子温が監督・脚本・製作を担当した自主映画。1990年に手がけた脚本と絵コンテをもとにするSF作品で、滅びゆく運命にある人間たちに日用品などの荷物を届けるアンドロイド女性の旅路をつづる。女性型ヒューマノイド、鈴木洋子“マシーンナンバー722”を神楽坂恵が演じ、ほか出演者には遠藤賢司、森康子らが並ぶ。
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イベントでは観客からの質問も受け付けられ、1997年に公開された園の監督作「桂子ですけど」と本作との類似を指摘する意見が。その問いに対して園は「『桂子ですけど』は、その当時実現できなかった本作のリファレンスなんです。作れないことが悔しくてあの作品が生まれたんです」と告白する。続けて「その当時僕は“日常”が撮りたかった。日常とは繰り返しであり、永遠的なものであり、宇宙的なものであると思っているんですね。だから(「ひそひそ星」の舞台である)宇宙船も、(「桂子ですけど」の舞台である)高円寺も変わらないと考えています」と制作の根底にある思想を明かす。
26年前に脚本が出来ていたということから相当思い入れが強い作品だということがわかります。園監督のコメントに 「“日常”が撮りたかった」とあります。私たちは日常を冷静にみることはほとんどなく何かの行事や変化を求めています。そしてその多くが話題となります。しかし日常のほとんどを占める繰り返しの時間によって人間の感性がはぐくまれ存在していることをこの映画は描いているように思います。
この映画のロケ地は福島です。園監督は『希望の国』という原発事故をテーマにした作品も作っていますので、その関連性を勘ぐってしまったのですが特に何もないようです。トークショウで神楽坂さんがおしゃっていました。
この映画は思考ではなく視覚と聴覚をオープンにし子供になった気持ちで観るのがいいのでしょう。映画はモノクロですが1シーンだけカラーになるところがあります。ちょっとその意味がわからなかったです。SFですが昭和の香がプンプン匂う映画でした。
いくつかの気になるところはあるのですが、日本映画では珍しい芸術性のある映画でした。感性豊かな方にお勧めの映画です。
トークショウ
上映の後に大島新監督と主演の神楽坂恵さんトークショウが開かれました。大島監督は、大島渚監督の息子さんで今回同時上映されているドキュメンタリー『園子音という生きもの』を手掛けています。トークショウは、大島監督が神楽坂さんに『ひそひそ星』製作のことや園監督の日常のことなどを質問する形式でした。映画自体がしんみりした感じだったので盛り上がったというよりも落ち着いた感じのトークショウでした。シネマカリテは舞台が壇になっていないので非常に近くところで見ることができます。