スタンリー・キューブリックのモノクロ作品です。戦争を起こす人達の風刺的コメディー作品となってます。
作品情報
公開:1964年
時間:1時間33分
監督:スタンリー・キューブリック
主なキャスト
ピーター・セラーズ
ピーター・セラーズが”ストレンジラヴ博士”、”マンドレイク大佐”、”マフリー大統領”の3役こなしています。
ストレンジラヴ博士:ナチス・ドイツ出身の各専門の科学者
マンドレイク大佐:イギリス空軍大佐で派遣将校。上官からソ連攻撃の命令を受ける
マフリー大統領:アメリカ合衆国大統領
スターリング・ヘイドン
ジャック・D・リッパー准将:R作戦という対ソ連核総攻撃を発動する
ジョージ・C・スコット
タージドソン将軍:反共産主義者。
あらすじ
アメリカーソ連の冷戦時代。米戦略空軍司令官のリッパー准将が、非常事態をマンドレイク大佐に通告する。それは戦争の開始を告げるものでR作戦という対ソ連核総攻撃の発動だった。外部の情報が入ってこないよう基地内のラジオを没収し、2時間以内にソ連への攻撃が出来るよう配備されたB-52爆撃機を出陣させた。だが、この対ソ連核総攻撃の開始の命令は、リッパ―准将単独の越権行為だった。
感想
邦題
邦題は、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』と補足も含め非常に長いものですが、これはキューブリックの原題の意味を変えていけないという指示でこうなったもの。原題は『Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb』です。Dr. Strangeloveは、作中に出てくるストレンジラブ博士を指しています。
参照:博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか - Wikipedia
公開は1964年ですので、ビキニ沖での核被害(1954)が記憶に新しい日本はこの作品をどういう気持ちで受け取ったのだろうかと想うと、いい気持ちでなかった人も多かったのではないかと思います。制作側は反核の意を込めているのは明らかなのですが、原爆に対して風刺的なコメディ表現が出来るという事はやはり原爆の傷を負っていないからではないでしょうか。当然日本では、このような砕けた表現の核兵器の映画は作らていません。分かりにくい邦題も意図的ではなかったにせよ、そのような日本人の気持ちが込められてたようなタイトルで良かったと思います。
絶滅装置
ソ連は、核戦争に備え絶滅装置という兵器を開発していました。それは自国に核攻撃があった場合に自動的に地球全体の生命を絶滅させるほどの核爆弾を発射させるというものです。しかも一度発動すると解除できないという仕組みで、それが究極の抑止力と考えられました。ただ残念なことに、その存在を世界に発表していなかったため抑止力が全く効いていなかったのです。
抑止力の為にと武力を増大させている昨今、この究極の絶滅装置が作られないという保証はあるのか心配になってきます。抑止力というものがどこまで必要なのかを考えさせられます。
戦争強硬派
この作品には、ナチスに影響を受けている人物が登場しています。タイトルにもなっているドクター・ストレンジラブはナチスの右手を上げる敬礼の癖があり、それを必死に抑えます。核戦争が人類選別のチャンスだという考えを持っています。他にも戦争い対して強硬姿勢を示す者もいて、タージドソン将軍は大統領の撤収命令に反対意見を述べたりします。B-52に乗るコング少佐も強硬とは言えませんがR作戦を積極的に遂行します。
戦争に関して訓練を受けた者や研究をしてきた者が、積極的に作戦に参加していく様が描かれています。常に「もし戦争が起こったら」を想定して仕事をしている人はどういう考えになるのかは想像できませんが、少なくとも何かの発端で戦争が開始されてしまったら想定してきた通りの行動を取り、簡単に止めれないのかもしれません。
最悪の結末
ソ連の撃墜を逃れたコング少佐が乗るB-52はとうとうソ連の基地を爆撃してしまいます。無線機の故障で撤退命令は届きませんでした。自動的にソ連の絶滅装置は起動し、全世界に向け核攻撃が行われることとなったのです。
ストレンジラブ博士は、この危機的状況で生き延びる方法を説明します。
「地下100m以上の坑道に逃げ込み、100年近くそこで生活を送る。一夫多妻制にし人類の繁殖スピ―ドを上げる」など
いくつものキノコ雲の映像が流れます。絶滅装置から発射された核爆弾が全世界で爆発したのです。今までコメディを楽しんでいた気持ちもこのシーンで完全に吹っ飛びます。心のどこかで絶滅はないと思ったいました。
実際の現実は、映画のような結末をまねくかしれないと感じます。その後の事態を甘く考えた結果、最悪の事態を招いてしまうかもしれないのです。予測出来ない状況の積み重ねが人類の滅亡へと繋がっていったのです。
まとめ
核の抑止力と言って、とんでもない破壊力を持つ武器を所有することは、よく考えみれば滑稽な話に思えます。
丁度今、アメリカと北朝鮮の関係が怪しい雲行きになっています。隣国の日本では北朝鮮のミサイルに対して警戒しいろいろと配備をしています。この緊張状態が続くことで、この映画で描いているような誤りが発生する可能性も高まります。
マンドレイク大佐がリッパー准将に対して「戦争を望んでいる者は誰もいない。」と命令を取り下げるよう説得します。誰も望んでいない戦争の為に武力を強化している今の世の中をこの作品は冷静に見つめ直させるものだと思います。
今のまさに冷戦時代に近づきつつあるこの状況に、お勧めの作品です。