藤竜也が痴呆症のお爺ちゃん役を、その息子夫婦を緒形拳、南果歩のキャストで贈る家族の絆描いた心暖まる作品です。
作品情報
公開:2014年
時間:1時間47分
監督:田中光敏
主なキャスト
俊介の父:大崎俊太郎(藤竜也)
大崎俊介(緒形直人)
俊介の妻:大崎昭子(南果歩)
俊介の息子:大崎大介(矢野聖人)
俊介の娘:大崎咲子(美山加恋)
あらすじ
大手企業に勤める俊介は、家庭を顧みず仕事一筋に生きてきた。順調に出世し取締役の席も目前にとなり、ごく一般的な家庭を築いたように思えていた。
そんなある日父俊太郎が痴呆症で外を徘徊してしまう。そして、その事がきっかけで俊介は家庭と真正面で向き合う事になる。
妻の昭子とは3年前の浮気によって冷めきった関係になっていて、息子は学業が思惑くなかったこともあり劣等感を持っている。もう家庭は破綻寸前でそれに気付いていないのは俊介だけという状態であった。痴呆症の父がトイレに行けず粗相してしまった時も誰も手伝ってあげず俊介が会社から呼ばれ面倒を見てあげなければならない状態。
俊介は、痴呆症の父の幼い頃の両親の記憶を蘇らせる旅に出る事で家族の絆を修復しようとする。
感想
さだまさし原作のこの作品、家族の深い心のつながりを描いています。
俊太郎の記憶に残る父との関係を蘇らす旅で、”俊太郎と俊介”、”俊介と大介”、”俊介と昭子”、”俊介と咲子”の関係も同期するように深まっていきます。
冷めきった家族
俊介は家族に愛情がなかった訳ではないのでしょうが、仕事で出世することが家族の為だと考えていたのでしょう。幼い頃に父を亡くし家族を大切にしてきた誠実で優しい俊太郎にはそのような息子を傍で見ていて複雑な心境だったと思います。息子が浮気をした事は親として肩身の狭い思いをした筈です。
妻昭子も自分を悲しませた男の親に愛情を注ぐことは難しいことだと思います。俊太郎が粗相をした時も世話をせずに俊介に任すという心境も分かる気がします。仕事ばかりして家庭を顧みなかった男は家庭では造花のように中身はないのかもしれません。そういう男でも会社で順調に出世していけば気が緩み、過ちを犯してしまうものなのだと思います。出世タイプの男性によく見られるタイプです。そういう人は家庭の存在に甘えているんですね。
親孝行の旅
この作品は痴呆症の人が登場しますが決してその苦しみや苦労を描いているものではありません。何より痴呆症の老人俊太郎が人格者なのです。ですからとてもお行儀のいい痴呆症の老人なのです。自分がボケて来たことを自覚し、周りに迷惑を掛けないように日記まで付けているくらいです。痴呆症の多くの方は、このような丁寧なボケ方をしないでしょう。ですから今苦労されている方が同調する為に観ると少し違うものを感じるかもしれません。あくまで痴呆症になった父親に孝行をするというストーリーです。
今まで家族旅行すらしたことがなかった俊介でしたが、病院に行く前に俊太郎を生まれ故郷に連れて行きます。その旅で家族の中にあるわだかまりを取り除いていきます。家族が仲良くし、その和気あいあいとした状態で俊太郎の生まれ故郷を訪れるという事が最大の親孝行となります。
男の生き方
痴呆症ではありますが俊太郎は、世の中の事をよく知っている老人です。俊介が会社で出世したとしてもその父から学ぶことはまだまだたくさんあります。俊介が父の世話をした後に「人を褒めるには、その人間を一生懸命に見ていないといけない。」と施される。俊介は家族を褒める事も出来ない父親だったのです。息子大介は俊太郎がお漏らしするようになったの知って周囲に内緒で紙オムツの世話をしていたのです。知っていれば褒めたでしょう。いや感謝したかもしれない。しかし見ていないので気付きもしない。反対に大介が汚物ゴミを捨てる姿を見て「世間に迷惑を掛けるような事はするなよ」と言う有様です。男の生き方というのを見直す作品なのかもしれません。
まとめ
痴呆症になった人というよりもなりかけの人への思いやりを考えるいい作品だと思います。家族というものは人のベースになっているものです。家族の大切さをしみじみと感じさせる作品でした。痴呆症というものは家族に心の準備期間を与えるためのものなのかもしれません。
予告動画