巨匠 テレンス・マリック監督の2作目です。美しい大自然の映像と深い人間ドラマが描かれた傑作です。
作品情報
公開:1978年
時間:1時間34分
監督
主なキャスト
ビル(リチャード・ギア)
ビルの恋人:アビー(ブルック・アダムス)
ビルの妹:リンダ:リンダ・マンズ
農場主:チャック(サム・シェパード)
感想
舞台は1900年前半、アメリカが移民を多く受け入れ、過酷な条件で労働者を働かせ、管理者と労働者の大きな格差があった時代です。
まず最初にその映像の美しさです。まるでネイチャー・ムービーのようなとても美しい自然の映像に目を奪われます。1978年 アカデミー撮影賞受賞(ネストール・アルメンドロス)しているのもうなずけます。登場する動物たちもの表情も撮られていて、人々が大自然の中で生かされているとうことが感じ取れます。少し変わった正確の妹リンダのナレーションで物語は進んでいきます。音楽は『ニュー・シネマ・パラダイス』の エンニオ・モリコーネです。
主人公ビルの「愛する女性と妹と共に裕福になりたい。」という強い思いが裏目裏目と展開していきます。
妹リンダ、恋人アビーと共に麦畑で出稼ぎ労働するビルは、当然のように今の立場にどこか不満を持っています。この麦畑に就くまでにいくつかの職を転々としていて、リンダとアビーに落ち着いた生活をさせてあげていません。感情的な行動(癇癪)に走り、社会的地位を築くことが出来ないのです。男の人生は後先を考えない感情的な行動を我慢出来るかどうかで大きく変わってきます。
農場の管理人チャックは、ビルとは違い恵まれた環境で生活を送っています。経済的な格差が二人の男を余計に対象的なものにしています。
そして事もあろうかチャックはアビーに恋してしまいます。ビルがアビーを自分の妹と偽っていたことが、これからの悲劇を引き起こしていきます。ビルには自分をさらけ出せない弱い部分があります。ハンサムで愛嬌もあり、周りから愛されてもおかしくない男なのにどうしても上手く世を渡ることが出来ない。世の中の多くの男性はビルと同じ様な不器用な要素を兼ね合わせていると思います。
ビルは、最愛の女性アビーとチャックの結婚生活を傍観することになります。チャックが余命1年と医者に告げられているのを盗み聞きしたビルは、遺産目当てで結婚をアビーに勧めるのです。何とも罪深い行為です。しかし、その穏やかで裕福なチャックとの生活は今まで仕事に追われ生きてきたビルとアビー、リンダにとってはまるで別世界のような日々だったのです。このまま何事もなくこの生活を送れれば良かったのですが、それは短い間でした。アビーがビルの本当の妹なら4人は幸せに暮らせたはずです。
偽り築いた幸福は偽りがバレル事で崩れていく。人は偽り通すことは出来ない。
チャックはビルとアビーの関係が兄妹というよりも男女の関係に近い事に気付き、不審感を抱き始めたのです。
広大な麦畑を背景に彼らの様々な感情が交差します。時折映される自然の映像は、どれほど人の感情が激しく動いていても大自然はゆったりと時を進めているとでも言いたいかのようです。人々の愛や憎悪などはちっぽけなものなんだと。
冬を迎える前、ビルはチャックの家を出ていきます。他で仕事をするという理由ですが、アビーの心がチャックに傾いていっていることに気が付いたからです。偽装とはいえ愛する女性が他の男と結婚生活を送っているのを見ているのは辛いはずです。これ以上一緒に暮らして偽装がバレてしまえば元も子も無くなってしまいます。裕福な生活を得る為に練った策でしたがそれはビルにとって辛い選択なっていきます。
ビルがいなくなってからは、チャックとアビー、リンダの3人は幸せな日々を過ごします。アビーもチャックの優しさを受け入れ始めます。
春が訪れ麦畑の麦の背も伸び収穫が近づいて来ました。そしてビルは再び農場に帰ってきます。表向きは収穫の仕事をするためでが、やはりアビーが恋しいのとチャックが倒れていることも期待していたはずです。
ビルとアビーの関係に気付いたチャックはビルに対して強い憎悪を抱きます。そんな中チャックの農場がイナゴの大発生というなんとも不運な災害に見舞われてしまします。そしてそのショックがビルへの憎しみへと代わります。不幸の連鎖の始まりです。イナゴを駆除をしていた時、チャックは近づいて来たビルに急に怒り出し、振り回したランプの火が麦に移ってしまいます。畑は焼け野原になってしまいました。
失望の中、ビルとアビーの企みを知ったチャックはビルを殺そうと後を追います。ビルは自分の存在がアビーを不幸にすると悟り農場を去ろうとしていました。ビルを見つけたチャックは銃を向けビルに詰め寄ります。ビルは持っていた工具で咄嗟にチャックの胸を突き刺します。以前は殺そうと考えたこともあるチャックを故意ではないけれど本当に殺してしまったのです。
追われる身となったビルはアビーとリンダを連れて農場を去ります。償いの気持ちを引きずりながら3人は逃走を続けます。
運も尽き、ビルは警官に見つかりを射殺されてしまいます。
ビルの死後、アビーはリンダを孤児院に入れ、兵士と共に列車に乗って次の人生の歩み始めます。リンダは友達と孤児院を抜け出し、友達に当てもない未来の話を聞きながら線路を歩きます。
まとめ
ビルの人生は当てもなくもがき苦しい人生でした。ただ一時は離れても、いつも傍にアビーとリンダと一緒にいたので孤独ではなかったはずです。一方チャックは裕福ではあったが、孤独な人生でした。大きな農場で1人暮していました。「天国の日々」はアビーがチャックと結婚し4人が共に暮らし始めた数日間の事だったのか?偽りの結婚でしたがチャックがまだ気付いていない間は4人全員がいままで持っていなかったものを手にし、喜びに満ち溢れた日々を過ごしたのです。儚く崩れることが約束された幸せの日々を手にした代償は余りにも大きいものだったのではないでしょうか?
リンダのナレーションで『この世の全ては燃え尽きる。その時、善人は救われ、悪人は神の声が聞こえない。』とあります。麦畑が燃え尽き2人の男が命を落とします。神の声を聞いたのはビルだったのか?それともチャックだったのか?当然、盗み、暴力を行ってきたビルには神の声が届く訳がないのでしょうがチャックも神の声が聞けたようにも思えません。善とは何なのか?そんな善悪なんかも大自然の中ではちっぽけなことで生きていくためにはどうでもいいことなのかもしれません。
何か答えがあるようでないという何かハッキリしない終わりです。ただ、このハッキリしないことが人間の本来の姿なんじゃないのかと思うととても意味のあるものになります。何度何度も観たい作品でした。
予告動画